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Tego Calderon(2007/05/30)

つい先日の事。インターネット・ラジオをサーフィンしていると、レゲト
ンの人気スター、テゴ・カルデロンの『Tego Calderon and Bomba in Barrio』と題された短いドキュメントにぶつかった。プエルトリコのアフロ文化の聖地ロイサにMTVのレポーターを案内して、この島独特のアフロ音楽ボンバをテゴが紹介する内容だった。
これの見応えが充分だった。
ボンバの魅力とこの音楽を生み育んできたロイサの雰囲気が、見事なまでに伝わってくる。伝統的なボンバ・ドラムの生演奏もあれば、街中の景色もしっかりと捉えられている。さらにはボンバ・リズムの一種オランデに乗せてレポーターがダンスをし、それを取り囲みニコニコしながら楽しんでいる街の人達の姿も登場する。もしテゴもロイサも知らなければ、ロケ地はアフリカだと信じてしまうに違いない。それぐらいディープだ。僅か4分弱の映像とは思えない程、密度は濃い。

 ロイサを間に挟んで、ピニョーネス、リオ・グランデ一帯は、かつては砂
糖黍農園が広がっていた。現在、その多くは牧場となり、放牧された牛の姿
を見ることができる。また首都サンフアンから高級リゾート・ホテルが並ぶ
イスラ・ベルデからピニョーネス、ロイサ、リオ・グランデと抜ける海側の
道は、南国気分を満喫させてくれる。砂浜と椰子林に挟まれた美しい景色が
どこまでも続く。観光者向けの絵葉書にあるような、まさにそのもといった
風光明媚な場所である。特に椰子の木が林、いや森のように生い茂る風景に
はただただ見惚れるばかりである。しかしロイサの中心部に近づくにつれ、何がどうとは説明できないのだが、風景が少しづつ微妙に変化し始める。空気が澱んだようにどんよりとし、時間が止まってしまったような静けさと倦怠感に包まれる。眩しいまでに照り付けていた太陽でさえ、フィルターをかけたかのように鈍く輝いているように思えてしまう。
 
 実はこれと同じ印象を、かつて他の場所で抱いた事がある。もう10年以
上前になるが、アメリカ合衆国南部のメンフィス郊外にあるアフロ・アメリ
カンばかりが居住する田園地帯の集落に行った時だ。ロイサの街中を通る度
に、この時の記憶が何故か甦ってくる。またマルティニクの小説家、ラファ
エル・コンフィアンの『コーヒーの水』を読む度に、いつも同じ印象に包ま
れてしまう。
 理由は分からない。だが国や地域を越えて共通するアフロな空気なのだと
思う。静けさの中に、実は目に見えない密なエネルギーが内包されている。
そんな不気味さなのである。この場所を通る度に、どこか怖い物見たさ、ま
たそれを期待している部分があるのを、自分の中に発見する。目に見えない
何かに惹きつけられる。不気味でさえある。だが本能が強烈に欲しているの
だ。あの街を通る度に感じる狂おしさが、テゴの音楽を耳にする度に甦って
くる。

 その理由は、テゴが、プエルトリコのアフロ文化の真っ只中で育ってきた
からだ。ロイサに生まれ、リオ・グランデで育ち、さらにはこの一帯のアフ
ロ系が戦後大量に住み付いた首都サンフアンのサン・トゥルセで思春期以降
過ごしている。もち論、その空気はCD、或いはライヴやビデオ・クリップ
からの映像からも伝わってくる。見るからに一時代前のやくざっぽい服装。
普通に喋る時だけでなく、ラップをやっている時でさえどこか間が抜けたよ
うな語り口やイントネーション。言葉遊びやジョークの感覚(テゴの語呂合
わせは、他のレゲトン・アーティスト以上にプエルトリコ内でしか通用しな
いものが実に多い)。モン・リベラとも共通する芸人的愛嬌。そして(映画
『インディー・ジョーンズ』ものに必ず登場する)ムカデだのゴキブリだの
がうようよと増殖しているような、何とも言えない得体の知れなさ…まさに
アフロ・ボリクア(プエルトリコ)のコミュニティーの中にどっぷりと浸か
った人間ならではの美意識だ。
 ロイサの風景と一体化する事で、『Tego Calderon and Bomba in Barrio』のドキュメントは、テゴの正体を肉感としてダイレクトに伝えてくれる。憑依させられてしまうかのようなボンバ・ドラムの演奏が全編に渡って流れる中、テゴは街の人達の中に匿名的な存在として溶け込み、心からくつろぎ、そしてボンバのスタンダード曲「エル・ベレン」を何気なく口ずさむ。この姿があまりにも自然なのだ。レゲトンの大スター、テゴ・カルデロンはここにはいない。
 この姿から、テゴがアフロ・プエルトリコ文化の申し子である事が伝わっ
てくる。テゴの音楽が強烈な異彩を放っているのは、ロイサの日常生活その
ものだからである。この地にしっかりと根を張っている強さだ。砂糖黍農園
があった植民地時代から続くプエルトリコのアフロ文化が醸造してきた最上
級のこくが、なみなみと湛えられている。言い換えればテゴの音楽の根底には、基層低音として常にボンバが鳴り響いているのだ。だからこそレゲトンに限らずテゴの音楽には、他とは比較しようのない強い生命力が漲っている。そこに理屈を越えて惹かれてしまう。
 そして常軌を逸したような凄まじいカリスマ性と相俟って、テゴは故イス
マエル・リベラと並ぶ伝説的存在とプエルトリコではなるに違いない。それ
はそう遠い将来ではない。すでに時間の問題なのだ。

http://www.tegocalderon.com


[そのほかの連載]
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